勿忘草。
一九世紀のパリでは恋人への贈り物にしたそうです。
1871年に普仏戦争が終わるまで、この世紀は確かフランスにとって争いの時代。
きっとたくさんの人がこの花に言い尽くせない思いを込めたのかもしれない。
その辺からこの感傷的な名前がきてるのかな。
数回しか会ってないのに、何故か忘れられない人っていますよね。
もう何年も会ってないのに、ふとした瞬間に思い出してしまう…みたいな。
僕にとってのそんな存在とは、
最後に電話してからもうかれこれ1年が過ぎたました。
きっと気まぐれな彼女にとっては、
1年間なんて3連休程度の感覚なのかもしれないけれど。
生まれも育ちも興味の対象も、
ありえないくらい重ならなかったけれど、
その奔放な生きかたにきっと惹かれたのかもしれない。
しがらみとか生い立ちとか、
びっくりするぐらいいろんなものに縛られながら、
華奢な腕で精一杯抗う姿に惹かれたのかもしれない。
でも華奢なのは見かけだけだって気づくのに、
そう時間はかかりませんでした。
単身中東に乗り込んで取材するって聞いたときは、
さすがに心配したけれど。
そんな彼女が描いてくれた花の絵が、
まだ部屋に飾ってあります。
未完成のまま色を入れられるのを待っている三輪の白いボタン。
僕はまた大きく息をついて、
書き込みで汚れた教科書と向かい合います。
わずかな角度をつけた二つの直線が、
もう一度交わることを祈って。